本当の国際化とは

日本語の優位性を高めること

ーー以下全部引用ーー

【金曜討論】「国際化の必然」?「長いものに巻かれる発想」?社内の「英語公用語化」
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100723/biz1007230857004-n1.htm

2010.7.23 08:53
英語を社内の公用語とする動きが目立っている。6月には、カジュアル衣料品店ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや、インターネット通販大手「楽天」といった有名企業が相次いで英語公用語化の方針を打ち出した。日本企業にとって、英語公用語化は国際化をはかる意味で、“必然”なのか。企業研修所「らーのろじー」代表の本間正人氏と、神戸女学院大教授の内田樹氏に、意見を聞いた。

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 ≪本間正人氏≫


国際競争力向上には当然

 −−この6月に大手企業2社が相次いで英語を社内公用語にする方針を打ち出した

 「当然の合理的選択だと思う。もちろんすべての企業が英語を社内公用語にしなければならないということではないが、ガラパゴス的環境に甘んじることなく国際競争力を高めていこうとする企業なら、そうするのが当然だ。ただ社内公用語化というのはあくまで形式であって、より重要なのは、日本企業の全社的なビジネス英語力を社内公用語レベルに高めていくことだ。発信力が、現状では大企業であっても不足している。発音は日本なまりでも構わない。しっかりした文章を書く力が必要だ」

 〇経営効率にメリット

 −−具体的なメリットとしては

 「これまでのように日本語で資料を作って、翻訳して海外に情報発信するという二段構えは、効率的ではない。インターネットの時代、翻訳を通した数分の情報発信の遅れが、不公平な投資障壁として海外投資家から訴訟の対象となる可能性もある。それならば最初から英語で文書を作り、会議をした方が効率がいい」

 −−英語に苦手意識を持つ人も多く、実行に難航も予想される

 「日本の英語教育の問題は大きい。約2千時間英語と接触すれば、非ネイティブの話者としては十分な運用能力が付くというのが定説だ。ところが日本の英語学習は、週4コマの授業で1年間で約140時間。中高6年間でも840時間程度にすぎない。しかも授業中、日本語の使用率が高く、英語との接触時間が全然足りない。これが日本人が英語ができない最大の原因だ。だから社内公用語化もすぐにとはいかず、社内会議の資料を日英対訳にするなどの移行期間が必要だろう。決断は早いほうがいい」

 〇英語で評価の方向

 −−国内中心に展開する企業は必要性を感じないかもしれない

 「もちろんそれは各企業の判断だが、そういう選択が許される余地は今後狭くなる。これから間違いなく日本の人口は減少し、日本経済を日本市場だけで回していくというのは無理になっていく。競争力のある会社は、海外で利益の過半を上げていくようになるのは必然だ。大企業のトップの条件に英語力が求められたり、人事評価に英語力が考慮されたりするのは自然な流れだろう」

 −−英語国民が有利で、日本など非英語圏は不利になるのでは

 「むしろそれはチャンスだと思えばいい。企業が海外で活路を見いだせる可能性もできる。アメリカに追従するみたいで屈辱的だという人もいるが、それは違う。これから日本人は、日本語に加えて英語もできるという状態になるわけだ。英語を使いこなすことで、世界に日本文化の良さを伝えられるようにもなる」(磨井慎吾)

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 ≪内田樹氏≫


長いものに巻かれる発想

 −−日本の企業で英語の社内公用語化が進んでいるが

 「そもそも英語とは、近代以降、世界を支配した世界最強国の言語であり、弱小国の言語ではない。英語の公用語化を採用すれば、強国が母語で意見を言えるというアドバンテージを与えることになる。現在の、英語公用語化の発想は長いものに巻かれ、勝者のルールでやっていくというもの」

 ●不公平序列ができる

 −−世界企業として生き残るためだと理由付けされている

 「『仕事はできるが英語ができない』人よりも『仕事はできないが英語はできる』という人が社内で高い格付けを得ることになる。TOEICの点数が高くて、発音も良く、アグレッシブに自分の意見を主張することこそがベストだという、アメリカンスタイルのような人間ばかりが企業に集まることになるだろう。日本人同士の会議やトラブルは、日本語で処理した方がスムーズで誤解も少なく、角も立たないのは明らかだ。国際舞台では、英語に秀でた一部の人材や、優秀な通訳を雇えばいい。英語公用語化には企業の思惑も見え隠れする。英語ができる学力優秀な人材は東アジアなどにもたくさんいて、日本人よりもはるかに安い給料で雇える。日本人の就労機会が減り、過酷な労働と賃金の低下につながり、やがては生産性の低下にもなるのではないか」

 −−現代の英語教育の問題は

 「何でこんなに英語ができないのか、と驚く。中学から大学まで10年間も勉強してもできないというのは、社会心理学的にも興味深い。単に教育システムが悪いとか、努力が足りないとかいうのではなく、理由はもっと複雑なのでは。学び始める中学の段階で、気持ちがブロックしてしまうのだろう。勉強しろと言う教師や親の姿勢などから嫌な気分になる。英語を学ぶ動機付けが大切だ。英語が話せないことを『欠如』と考える劣等感があり、社会が『英語ができないと話にならない』とプレッシャーを与えることが、心の引っかかりになっているのだろう」

 ●もっと有利な道を

 −−しかし、世界共通語は必要である、と

 「リンガ・フランカ(世界共通語)の確立を提案している。英語をベースにしながらも、英語とは切り離し、コミュニケーションツールに特化した言語。発音や文法、言い回しの間違いをお互いに指摘せず、ジェスチャーも言葉に含む。全員が同じ立場に立ち、意思の疎通のための実用的な言葉として確立すべきだ。日本語で論文を書いて博士号が取得でき、英語ができなくても政治家になれるのが現在の日本で、つまり『言語鎖国』。英語公用語化はそんな現状の日本にとって不利だ。もっと有利な道を考えるべきだろう」(田野陽子)

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【プロフィル】本間正人

 ほんま・まさと 成人教育学博士、帝塚山学院大学客員教授。昭和34年、東京都生まれ。50歳。東京大学文学部卒業後、松下政経塾に入塾。米ミネソタ大学大学院修了。元ミネソタ州政府貿易局日本室長。NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」の講師を務め、企業研修などに関する著書多数。

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【プロフィル】内田樹

 うちだ・たつる 神戸女学院大学教授。昭和25年、東京都生まれ。59歳。東京大学文学部卒。専門はフランス現代思想だが、教育論から身体論、映画論まで幅広い。武道家で、大学の合気道部などで指導する。昨年刊行の『日本辺境論』(新潮新書)が「新書大賞2010」に選ばれた。