危機感

ーー以下全部引用ーー

浮上せよ 日本経済
http://www.sankei.co.jp/netview/yahoo/kdk/100913.html

続く地盤沈下 韓国製が評価上回った


「うちに置いてあるテレビはソニーだが、今回は初めてサムスンを選んだ。値段が手ごろだし、品質も十分よさそうだ」

 8月中旬、米国の首都ワシントン近郊にある家電ショップ「ベストバイ」を訪れた男性客(42)は韓国・サムスン電子製の液晶テレビを満足そうに買っていった。

 この店では壁一面をLCD HDTV(液晶高精細度テレビ)が埋め尽くす。「売り上げ次第で頻繁に入れ替える」(店員)という約40台の展示商品のうち、半分を韓国メーカーのブランドが占める。「日本ブランド」の強さを示す光景はそこにはない。

かすむブランド力
 「米国の消費者は韓国ブランドに『高品質』という印象を持っている。日本ブランドと同じだ。日本人は日本ブランドに優位性を感じるのだろうが、米国の消費者にとっては変わらない。特にテレビのブランド力ではサムスンが日本をしのぐ」

 米消費調査会社PROバイインググループのディビッド・ワークマン専務理事はこう解説する。

 「韓国と変わらない」という日本のブランド力は、売り上げにも表れている。米調査会社NPDグループによると、今年1〜6月期に米国で売れた薄型テレビは、サムスンがトップだ。日本のソニー、韓国のLG電子、日本のパナソニック東芝がそれに続く。

 3日にベルリンで開幕した世界最大の家電見本市「IFA」では、LGの3D対応有機LEDテレビを前に日本メーカー幹部が立ち尽くした。鮮やかな3D映像が浮かび上がったパネルは厚さがたったの3ミリ程度。技術力の高さから目を離せなかった。

 「ヤバいかも」。幹部はうなるしかなかった。

シェアは没落の証明
 総務省の国際競争力指標によると、調査した情報通信機器の関連製品35品目のうち17品目で日本が売り上げシェアを2年前より落とした。液晶テレビは12・3ポイント低下の30・6%、ノートパソコンは5・3ポイント、携帯電話は6・5ポイント低下した。ある業界関係者は「シェアは没落の証明にみえる」とつぶやいた。

市場開拓 問われる実行力
 「もう日本から学ぶことは何もない」

 今年5月下旬。経済同友会の韓国視察団としてサムスン電子や政府系研究所の施設などを訪ねた帝人会長の長島徹は、意見交換をした韓国の企業関係者からこう通告された。耳を疑いたくなる衝動にかられているところに、別の経済人がこうたたみかけた。

 「日本はもっと先端技術を開発してください。その部品を韓国が買い、組み立て、かっこよくデザインし世界に売ります。だって日本人は内向き志向で、外国に出かけて市場を開拓するガッツがないでしょう」

 反論はしなかった。「共存共栄で」と絞り出すのが精いっぱいだった。

 「彼らはずっと日本に追いつこうと、日本のいいところを取り入れたりマネをしたりしてきた。ようやく追いついたと思ったら、低コストで生産し、世界中に売っている」

 韓国は日本の「いいところ」を武器にした。一方で「いいところ」の原産地である日本は息苦しいほどの閉塞(へいそく)感に悩む。経済同友会が7月下旬に長野県軽井沢町で開いた夏季セミナーでは、「日本は成長力がない国の代名詞」「意思決定のスピードに欠ける」と否定的な言葉の披露が延々と続いた。

基幹産業総崩れ
 韓国側の強気は、データが裏付ける。

 日本のお家芸だった液晶パネルが代表的だ。米調査会社のディスプレイサーチによると、2009年の世界生産シェアはサムスン電子とLG電子の韓国勢2社が4割以上をしめる。日本勢はシャープが5位に入るのがやっとだ。

 日本は開発をリードし、高付加価値品として売り出すことに成功した。だが新興国が生産技術を身につけたとたん「汎用品にすぎなくなった」(東芝幹部)。

 液晶パネルの日本の優位が薄れたのは販売や生産だけではない。業界関係者は「価格決定権を握っているのも事実上、サムスンとLG」とささやく。

 太陽電池も05年までは生産量トップ5のうち4社が日本勢だった。しかし新興国の台頭で、10年は上位5位から日本勢が消える見通しだ。

 環境技術で先行するとみられている次世代自動車も「結局は追いつかれ役になりかねない」(エコノミスト)と不安が広がる。

 次世代自動車の部品に不可欠なレアアース(希土類)は9割を中国が供給している。その中国が7月、輸出を規制すると表明した。東京財団の研究員、平沼光は「先進国から環境技術を引き出す戦略物資にしている」とみる。その間にも「供給はいずれ逼迫(ひっぱく)する」(トヨタ自動車幹部)情勢で、生産や開発の環境は悪化する。

 部品の少なさも逆風だ。部品同士の複雑な調整を得意とする日本は、部品が多いほど他の国と差別化できる。しかし電気自動車の生産に必要な部品はガソリンエンジン車の数十分の一ともいわれる。東大特任教授の妹尾堅一郎は「やがて国内の自動車産業の強みはなくなり、部品メーカーを含め大打撃を受ける。あと15年ほどで産業が壊滅する可能性さえある」という。

作戦決行いつか
 日本経済はいまや戦略を出し惜しみしている場合ではない。国際競争力は前年の17位から27位に転落し、08年まで10年間の経済成長率は平均値で名目ゼロ%(国民経済計算2010年版)だ。この間、企業や国民が持つ資産から負債を差し引いた「国富」は約260兆円減り、国内の資本や労働力から得られる潜在成長率も1994年以降2%を下回り続け、2009年は0・6%に落ちた。

 日本総合研究所理事の湯元健治はいう。

 「電機や自動車産業など日本の基幹産業が支えてきた輸出依存の成長モデルが通用しなくなった以上、新しい成長の糧を見つけないといけない。そうでない限り、日本経済は静かなる衰退に向かう。政府は成長戦略を作りはした。今問われているのは実行力だ」

 日本経済の地盤沈下を食い止める作戦決行の号砲はいつ響くのか。(敬称略)


 日本経済の地盤沈下が加速している。国別の国際競争力ランキングは58カ国・地域中、27位に落ちた。輸出主導の成長モデルは構造的な限界に突き当たった。物価下落の続くデフレがつきまとい、円高対応は後手にまわる。頼みの政治も民主党の代表選では財源確保策で堂々巡りを繰り返し具体論に進まない。一方で引き出しの奧から出されていない戦略もある。出し惜しみが許されない日本経済の現状と取るべき作戦を点検する。

2010年9月6日付 産経新聞東京朝刊


成長の切り札 観光立国 ターゲットは中国

富士山を南に望む山梨県富士河口湖町にある県立富士ビジターセンターでは、英語や中国語で富士山観光を案内している。センターの駐車場に次から次へとやってくる大型観光バスからは、外国人ツアー客が降り立っていく。

士山は外国人に人気の観光スポットだ。富士山を背景に記念撮影したり、センターの展示物を見学したりした後、5合目に向かうのが定番コースだという。

 最近、特に目立つのが中国人観光客だ。平成21年度にセンターを訪れた中国人は前年度に比べ2%増えて6万4千人となった。日本人を含む全来訪者の4分の1を超える。センター長の宮下吉貴は「今年度も中国人は前年度の1・5倍に増えそうだ」と目を細める。

 ■土産に1人10万円

 「世界でもトップレベルの観光資源は、日本の経済成長の切り札だ」

 観光庁長官の溝(みぞ)畑(はた)宏はこう力説する。富士山のような大自然がそのまま観光資源となるなら、財政出動は少なくてすむ。外国人人気が過熱すれば、海外からも富をもたらす。政府はこうした観光資源を活用し、21年に679万人だった訪日外国人を31年までに2500万人、将来的には3千万人とする目標を掲げる。

 最大のターゲットは経済発展が著しい中国からの観光客だ。観光庁の6月の調査では、中国人による土産品支出額は1人当たり10万1千円。日本を訪れる外国人の平均は4万8千円だから2倍を超える断トツの1位だ。「化粧品などを大量に買っていく」(都内のドラッグストア)という購買力は圧倒的だ。

 政府は7月、中国人の個人観光査証(ビザ)の発給に必要な要件を緩和した。富裕層だけでなく中所得者層も発給対象となった。その結果、7月は中国からの訪日者数が16万5千人と過去最高を記録した。

 さらに年内にも、日系の旅行会社が中国で訪日旅行商品を扱える見通しとなった。中国政府が8月に訪中した前原誠司国土交通相の要請に応える形だ。

 日本観光のプロである日系企業が中国で魅力あるツアー商品を多彩に用意できれば、繰り返し日本を訪れるリピーターの増加が期待される。訪日旅行商品を手掛ける日本旅行マネージャーの佐藤均は「ついに中国進出に向けて一歩進んだ」と顔をほころばせた。

 政府は28年の訪日中国人を21年の6倍の600万人にしたい考えだ。

 ■78万人の新規雇用

 外国人観光客は鉄道やタクシー、ホテル、食事、お土産などにお金を使う。観光庁の試算では、2500万人の目標を達成すれば、国内での消費は1年間で4・1兆円になる。外国人が消費するモノの生産や物流などを含めると経済波及効果は9・9兆円で、国内総生産(GDP)を2%程度押し上げるとみられる。78万人の雇用も新たに生まれる計算だ。

 問題は目標通りに外国人が来るかどうか。第一生命経済研究所・副主任エコノミストの近江沢猛は「目標達成には国際的に見劣りする観光客の誘致態勢を拡充する必要がある」という。

 ライバルの韓国は、中国人にビザを1回発給すれば、3年間の有効期間中に何回でも入国できるようにし、大胆な政策で受け入れ態勢を強化している。

 海外に自国観光を宣伝する政府観光局の態勢も日本はアジアに見劣りする。海外事務所は韓国が27カ所、タイも18カ所を整備しているが、日本は13カ所にとどまる。

 また、中長期的には為替政策も課題になる。円高が長期化すれば、外国人が円換算でできる買い物は少なくなり、訪日観光にはマイナスになるからだ。

 日本の観光資源としての魅力は海外で高まりつつある。観光をしやすくするための制度改正も進む。観光による経済成長を“絵に描いたもち”に終わらせないために、官民の知恵が試される。(敬称略)



日本経済 官民双方の“柔軟対応”がカギ 

「新幹線には46年の歴史があるが、中国はそういう蓄積を短期間で習得できるメリットがある。日本と中国はライバル同士。互いに良いものを作って輸出していきたい」

 8月21日、中国の上海駅。開通したばかりの高速鉄道車両「和諧(わかい)号」に試乗するためホームに現れた国土交通相前原誠司は最初、余裕をみせていた。

だが、車両に乗り込むと表情が一変する。カーブに差し掛かっても時速300キロを切らず、揺れもほとんど感じさせない。前原の顔には、焦りの色が浮かんでいた。

 海外の高速鉄道整備に新幹線技術を売り込むため先頭に立つ前原。「11月に入札を締め切るブラジル、年末にも入札日程を決める米国で中国が参入するのは確実」(国交省)とみられており、前原は、中国が日本の強力なライバルになると肌身で感じた。

 ■総務省の“成功体験”

 インフラにかかわる国と国との売り込み合戦はあらゆる分野に及ぶ。地上デジタル放送の規格を海外に普及させようとする総務省が今、攻勢をかけているのは南アフリカなど15カ国が加盟する南部アフリカ開発共同体(SADC)だ。その総務省には昨年から今年にかけての南米での“成功体験”がある。

 「日本方式の技術を使えば、どこにいてもサッカーが見られます」

 総務審議官(現総務省顧問)としてペルーを訪れた寺崎明は、大統領のガルシアにこう切り出した。その上で差し出したのは、日本方式を採用したブラジルのテレビ放送を受信した携帯電話端末。映像を見たガルシアは「オーッ」と感嘆の声を上げ、日本方式採用の流れができた。

 アナログ放送からデジタル放送に転換する動きは欧米で先行し、今後は新興国で本格化する。中でも2014年のサッカーW杯ブラジル大会を控える南米は、テレビや携帯電話などの関連市場の伸びが最も期待できる地域で、日米欧だけでなく、中国も規格を売り込んでいた。

 実際、ベネズエラは中国方式の採用を内定していたが、寺崎は大統領のチャベスとの1時間半の直談判で中国方式の問題点を念入りに説明。日本方式に覆した。南米では9カ国が日本方式を採用し、人口の9割近くをカバーする。

 ■海外企業と連携も

 鉄道や原子力上下水道などインフラにかかわる需要は大きく、世界で毎年1兆6千億ドル(約135兆円)、アジアだけでも7500億ドル規模の需要があるとされる。日本企業にとって巨大なビジネスチャンスだ。さらに地デジなどの規格を普及させると、関連製品の販売面でも日本企業が有利になる。国を挙げて売り込むのも、この経済波及効果への期待があるからだ。

 ただ、官民がうまく連携できないと、せっかくの機会も効果を半減させかねない。地デジが普及した南米では日本企業の対応が出遅れ気味で、「韓国のLG電子やサムスン電子が綿密に市場調査し、資金や人員を集中的に投入してきた。今ではテレビのシェアの半分強が韓国勢だ」(電機業界関係者)という。

 一方、日本企業の間では国ばかりに頼らず、海外企業との連携を模索する動きも強まっている。

 住友商事は7月、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国での発電事業で、最低価格を提示し優先交渉権を得た。同社の企業連合には、韓国企業やドイツ企業が参加。専務の浜田豊作は「ドイツ企業と組んだため、最近のユーロ安を反映させた低価格のメリットを享受できた」と話す。

 丸紅、三井物産も中国やシンガポールなどの企業とアジアの上水道整備などを進める方針だ。そこには「オールジャパンにこだわりすぎて受注を逃せば本末転倒だ」(商社幹部)という判断もある。官民双方が柔軟で現実的な対応を取れるかどうか。それが海外のインフラ需要を経済成長につなげるカギともなっている。 (敬称略)


外国人パワーで成長基盤の整備を 「人件費負担を上回る見返り」との意見も

「そろそろ加速しようじゃないか」

 ソニーの業務執行役員、藤田州孝(くにたか)がこう語りかけると、居合わせた人事担当者の表情はパっと明るくなった。来年度の外国人採用を拡大することを意味していた。採用凍結が続いた同社にとって、「加速」は我慢からの解放でもあった。「これからが本番だ」。ひとりがつぶやいた。

まず、東京の本社による中国人技術者の採用を平成23年度から再開する。ベトナムインドネシアの新卒技術者も採用する方針で、10月にも担当者が現地に出向く。採用のめどがつけば具体的な活動に踏み切る。

 苦戦も予想される。成長著しいアジアの優秀な人材は、世界中からお呼びがかかる。争奪戦は激しく、採用中断が2年も続けばその企業は競争から脱落するといわれる。

 「採用凍結が影響しないとはいえない」。人材開発部統括部長の岸本治は焦りを隠しきれない。だが岩井証券イワイ・リサーチセンター長の有沢正一は「焦る必要はない。外国人労働力の採用機運が高まれば、日本の成長基盤固めにもつながる」と期待する。

 ■人件費上回る見返り

 「外国人労働者の導入は経済成長に役立つ」

 こう断言するのは大手素材メーカー幹部だ。

 少子化を放置すると、生産年齢と呼ばれる15歳から64歳までの人口は急減する。政府の試算では42年には、18年時点と比べ1千万人減る。

 外国人労働力で補えば、「労働者の出身国との橋渡しが期待できる。異文化圏ならではの発想が新市場を創造する可能性もある。人件費負担を上回る見返りを期待できる」というのが、この幹部の見解だ。

 コンビニエンスストア大手のローソンも20年度から3年間で70人弱のアジアの留学生採用を始めたが、狙いは「多様な価値観を受け入れ社内を活性化させるため」(同社)だ。

 ドイツや英国、フランスなどでは、労働力全体に占める外国人労働者の割合は5〜9%だ。日本は1%程度にとどまる。英国では2006年の外国人労働力による経済成長への寄与度が15〜20%程度だったともみられ、日本でも期待が集まっている。

 ■0・3%押し上げ

 しかし外国人の人材確保には、制度上の壁がある。

 ある日本の金融機関は、外資系金融機関の外国人の経営幹部をヘッドハンティングしたが、その幹部はある事情で入社の断念を余儀なくされた。経営幹部は出入国管理法上、外資系企業の「経営者」として在留資格を得ていた。しかし日本企業に移れば資格が「専門技術者」と変わり、それまで雇っていた外国人の家政婦が帯同できなくなってしまうのだった。

 「技術」「人文知識」などの専門家として日本在留資格の認定を新たに受けた外国人は平成21年には8585人と前年から5割も減った。景気悪化による企業の人件費抑制が大きな理由だが、制度上の問題もちらつく。

 外国人労働者の積極受け入れを主張する日本経団連・産業政策本部副本部長の川口晶は「入国管理制度を見直すなど受け入れやすくすべきだ」と主張する。

 政府は6月に閣議決定した「新成長戦略」に、外国人労働者を受け入れやすくする対応を盛り込んだ。技能や資格をポイントで数値化し、一定水準で資格を得られるようにすることが柱だ。それらにより32年までに就労資格を持つ「高度人材」を倍増させるほか、高度人材として日本への定着が期待される外国人留学生の受け入れを30万人にするという。

 日本経団連も外国人労働力の導入を含めた成長戦略を打ち出している。実施すれば370万人の雇用を生み、国内総生産(GDP)を実質0・3%押し上げると効果をはじく。

 経済産業省の試算では、生産年齢人口を7年のピーク時の水準に維持するには、42年までに平均で1年間に50万人の外国人を受け入れる必要があるという。受け入れた外国人が経済成長の期待を担う時代はすぐそこまで来ている。(敬称略)


エコ未来都市売ります 海外視野、広い業種に恩恵

台風9号で雨模様となった8日午前。つくばエクスプレスで東京・秋葉原から約30分の柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)のそばに街づくりの新たな拠点がオープンした。周辺は東京大学千葉大学の施設がある学園都市。そこを、先端技術を活用した未来型都市にしようと活動する「柏の葉アーバンデザインセンター」(UDCK)の施設だ。

「産業界と連携を深めながら、東大の技術やノウハウを社会実験として展開していきたい」

 式典会場では、センター長で東大大学院教授の大和裕幸が意気込みをみせ、柏市長の秋山浩保も「新しい街だからこそできる新たな試みに取り組みたい」と語った。

 4年前に発足したUDCKは地元自治体と大学、企業で組織。これまでの活動で、街中に公衆電源を設けてパソコンや携帯電話に充電できるようにするなどの社会実験を行ってきた。

 昨年7月には、主にビジネスに絡む事業に取り組む別組織が発足。太陽光や風力などの再生可能エネルギーで地域の電力を賄い、電気自動車の充電設備などを整備する「スマートシティ」計画を発表し、三井不動産やシャープ、伊藤忠商事など10社と実証実験を行う会社を設立した。

 実際には費用負担などの難問も多く、大和も「一筋縄では進まない」と認めるが、同様の構想は国内外で相次いで検討されている。

 ■100兆円の巨大市場に

 「自分には何ができるのか」。日本経団連会長の米倉弘昌は5月の就任後、絶えず自問してきた。地盤沈下が進む経済を民間主導で活性化させられないか。そんな危機感で検討を指示し、7月に披露(ひろう)したのも未来型の都市づくりだった。

 「環境、スマートグリッド(次世代送電網)、交通システムなど日本が得意とする各企業の技術力を集めたモデル都市」。米倉の念頭にあるのは人口10万〜30万人の都市で、すでに「候補地として複数の自治体が手を挙げている」(経団連幹部)という。

 米倉がこの構想に将来を託そうとするのは、ゼネコンや不動産はもちろん、電機や自動車、機械、電力、流通など多くの産業と密接につながり、大きな波及効果が期待できるからだ。

 6月に新成長戦略を決めた政府も同じ認識から、再生可能エネルギーの活用を軸とした環境未来都市構想を提唱。10年後に環境・エネルギー分野で50兆円超の新規需要を創出するとした目標に向けて「中核事業となるのがこの構想だ」(経済産業省)と鼻息も荒い。将来的に同様のエコ都市建設の市場規模が世界で年間100兆円になるという日立製作所の推計もある。

 ■塩田跡地に35万都市

 問題はこうしたチャンスを生かせるかどうかだ。米倉らの視線の先には海外があり、「国内の成功例を踏まえてプロジェクトを売り込む」(経団連首脳)というが、構想ばかりの日本と異なり、海外では相次いで事業が具体化している。

 例えば中国・天津市で始まった天津エコシティー構想は、塩田跡地に35万人規模の都市を建設。再生可能エネルギーの利用率を20%以上にするほか、下水からメタンガスなどのエネルギーや肥料を取る計画だ。

 すでにアニメ産業の育成施設の建設などが始まっており、日本総合研究所創発戦略センター所長の井熊均は「エコシティーが環境技術のショールームとなり、新たなビジネスが生まれる」とみている。

 訪中した米倉は8日、河北省唐山市の別の構想に協力する考えを表明した。着実に実績を積む海外でも受け入れられるノウハウを確立するには、規制緩和や税制優遇措置などの政策パッケージで国内の構想を後押しすることも不可欠となる。

 これまで日本経済を牽引(けんいん)してきた自動車産業には部品や素材業界など幅広いすそ野があるが、未来型の都市づくりはそれを上回る経済的なインパクトをもたらす可能性も秘める。日本企業の総合力を結集した技術やノウハウが海外でも展開できるのかどうか。その成否は、経済大国としての日本の浮沈にもつながっている。 =敬称略

 (この連載は比嘉一●(=隆の生の上に一)、大柳聡庸、粂博之、石垣良幸、飯塚隆志が担当しました)